
PostgreSQLはいつまで使える?クラウド時代に欠かせないバージョン管理と運用対策
クラウド環境でPostgreSQLを利用する企業は年々増加しています。従来のオンプレミス環境では「塩漬け運用」と呼ばれる長期利用が可能でしたが、クラウド時代は各ベンダーが定める厳格なサポート期限に従う必要があり、数年ごとのバージョンアップが避けられません。
安定稼働を実現するにはバージョン管理の徹底だけでなく、稼働状況の可視化や予兆把握、外部専門家の知見を取り入れた運用体制の整備が欠かせません。
本記事では、PostgreSQLのサポート期限がもたらす影響と、安定稼働を確保するための実践的な運用対策を解説します。
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オンプレ時代の「塩漬け運用」と限界
多くの企業では、オンプレミス環境においてデータベースを運用してきました。サーバーやOSを自社で抱え込み、データベースも自ら維持する仕組みであったため、バージョンアップは必須条件ではなく必要性が薄ければ見送る姿勢が一般的でした。結果、いわゆる「塩漬け運用」と呼ばれる状況が広がったのです。
短期的に見れば、コストや作業負荷を抑えられるという利点が存在します。新しいバージョンへ切り替える際に求められるテスト工程やアプリケーション修正、さらには長時間に及ぶサービス停止を避けられるため、運用担当者にとっては合理的な選択肢となっていました。
一方で、バージョン固定が長期間続くという深刻な課題に直面しました。例えば、PostgreSQLのコミュニティでは各メジャーバージョンに対して5年間のセキュリティサポートを提供する仕組みがあり、サポート終了を過ぎたバージョンを利用し続けると脆弱性リスクが急速に高まります。
そのうえ、数世代にわたる差を一気に埋める必要が出てきた場合、互換性の検証やシステム改修の規模が膨張し、移行コストが跳ね上がる事態となりました。結果として、オンプレミス運用における「放置できてしまう」という特性そのものが、長期的には組織のリスクを増幅させる要因となったのです。
PostgreSQLバージョン管理の重要性
データベースの安定稼働を維持するためには、バージョンリリースの周期とサポート期限を理解し、常に計画的な更新を進める姿勢が求められます。特にクラウド環境では延命策が限られているため、期限を把握しない運用は重大なリスクにつながります。
以下では、リリースとサポートの仕組みやサポート切れによる影響、クラウド特有の制約についてみていきましょう。
メジャーバージョンリリースとサポート期間の仕組み
PostgreSQLは、毎年おおむね1回の頻度でメジャーバージョンが登場します。各メジャーバージョンは最初の公開から約5年間にわたりサポートされ、セキュリティ修正や重要なバグ修正が提供されます。
マイナーバージョンは3か月程度の周期で更新され、安定性や不具合修正が主目的です。運用担当者は、自身の利用しているバージョンがEOL(End of Life)に到達する時期を常に確認する必要があります。
サポート切れによるセキュリティ・パフォーマンス・互換性リスク
サポート終了後のバージョンを継続利用する行為は、システム全体の安全性と性能に深刻な影響を及ぼします。特にクラウドサービスでは利用が制限されるため、影響範囲は一層拡大します。
セキュリティリスク:脆弱性が修正されず、攻撃対象となりやすい
性能リスク:古いバージョン特有のバグや処理劣化が改善されない
互換性リスク:新しいアプリケーションやライブラリと適合しなくなる
例えば、Cloud SQLではPostgreSQL 12や11が2025年2月1日から標準サポート対象外となり、以降は有償の延長サポートを契約しない限り利用が制約されます。
クラウドにおけるバージョンサポートの厳格化
AWS、Azure、GCP、OCIなどの主要クラウドベンダーは、PaaS上でOSやデータベースのサポートを厳密に管理しています。PostgreSQLについても、期限切れバージョンの継続利用は自動的な延長サポート課金や強制アップグレードの対象となる場合があります。
オンプレミス時代にはリスクを抱えながら利用を続ける判断もあり得ましたが、クラウドでは猶予がなく、計画的なバージョン管理が不可欠です。
現行バージョンのサポート期限を確認する方法
利用しているPostgreSQLがどのバージョンか、そしてサポート期限がいつまで続くのか把握することは安定稼働に欠かせません。運用担当者は日常的にバージョン情報を確認し、公式のサポートカレンダーを照らし合わせながら更新計画を立てる必要があります。
以下で、確認手順と主要クラウドごとの対応を整理します。
①バージョンを確認する
「SELECT version();」を実行すると、稼働中のPostgreSQLの詳細なバージョン情報を取得できます。出力結果にはメジャー番号とマイナー番号が含まれ、サポート期限の判断に直結します。
②サポート期限を調べる
サポート期限を把握するには、PostgreSQL公式が公開しているバージョン管理ポリシーを参照する方法が基本となります。クラウド環境の場合はさらに、各ベンダーが定めたサポートページを確認することが不可欠です。
Azureでは標準サポート終了後に有料延長サポートへ自動移行される仕組みが導入されており、GCP Cloud SQLでは標準サポート終了後に強制アップグレードが適用される場合があります。
クラウド別 PostgreSQL サポート比較表
クラウド | 標準サポート期間 | 延長サポート | サポート切れ後の挙動 | 参考URL |
AWS (RDS / Aurora) | メジャーバージョンリリースから約5年間 | あり(有償、最大3年間) | 例:PostgreSQL 12 は 2025年2月末で標準終了、その後延長サポート【有料】。契約がなければ強制アップグレードの可能性あり | |
Azure Database for PostgreSQL | 通常5年間(コミュニティ準拠) | 延長サポートあり(最大3年間) | サポート切れ後は有料延長サポートへ自動登録。アップグレードで回避可能 | |
GCP Cloud SQL | コミュニティのライフサイクルに準拠(約5年間) | 延長サポートなし | サポート終了後は強制的にアップグレードが適用される場合あり | |
OCI (Oracle Cloud Infrastructure PostgreSQL) | コミュニティと同等の約5年間 | 延長サポートなし | サポート切れ後は新規作成やアップグレードが必須となる |
クラウド環境での継続運用に潜む課題
クラウド基盤でPostgreSQLを利用する場合、標準サポート終了後に延長サポートへ自動移行されたり、強制的にアップグレードされたりする仕組みが導入されます。運用チームにとっては計画性を欠いた対応が大きな負担となり、障害やコスト増加につながる要因となるでしょう。
サービス停止を避けるための計画的なバージョンアップ
クラウド環境では、数年ごとに必ずバージョンアップが発生します。タイミングは自社の業務サイクルと一致するとは限らず、直前対応では長時間停止やシステム障害を招く危険性があります。特にメジャーバージョン間で非互換が起きやすく、代表例は次のとおりです。
SQL構文やシステムカタログの変更
廃止機能や非推奨パラメータの削除
拡張モジュールの非対応
クラウドにおけるアップグレードでは回避できない工程であるため、互換性検証は必ず実施する必要があります。
突発的な性能劣化やトラブル発生のパターン
クラウドDBではアップグレードだけでなく、予期しない性能低下や障害も発生しやすい特徴があります。主なケースは、以下のとおりです。
短期間でのアクセス集中(キャンペーン開始や災害時の急増など)
バックグラウンド処理によるリソース逼迫
インデックスやクエリ計画の変更に伴う性能低下
クラウド環境ではハードウェア選定を直接制御できないため、問題切り分けの迅速さと監視体制の充実が欠かせません。
社内DBA不足と専門知識の壁
クラウドベンダーは基盤の安定性を保証しますが、個別アプリケーションに最適化した調整や障害対応は利用者側の責任範囲となります。以下のような課題を抱える企業が少なくありません。
社内に専門的な知識を持つ人材が不在
DBA人材の採用コストが高騰している
育成途中で技術者が離職してしまう
知識不足と人員不足が重なることで、バージョンアップ対応が一層困難になる現実があります。
PostgreSQL運用を安定化させるための解決策
長期的に安定したPostgreSQL運用を実現するためには、EOL前の移行準備、稼働状況の継続監視、外部専門家の活用といった多角的な取り組みが必要です。
クラウドベンダーの強制アップグレードや延長サポートの仕組みを踏まえ、組織内での運用リスクを最小化する施策を段階的に進めることが求められます。
なお、PostgreSQL運用の安定化にも関連するチューニングについてはこちらの記事で解説しています。
EOL(End of Life)を迎える前にすべき移行準備
サポート期限を過ぎる直前に更新を行うと、業務停止や障害発生の危険が高まります。公式ポリシーが示すサポート期限を踏まえ、少なくとも終了1年前から以下の準備を着手するのが理想です。
対象システムの棚卸し:どのサービスやアプリケーションが対象DBを利用しているかを明確化する
互換性の確認:アプリケーション、ドライバ、拡張モジュールの動作を検証する
リハーサル:ステージング環境でアップグレードを事前に試験する
移行計画の策定:停止時間の短縮やバックアップ体制を整備する
早期の準備を進めれば、トラブルを抑えながら円滑に移行できます。
継続的な稼働チェックと予兆管理の実践
安定稼働を維持するためには、日常的な監視と予兆検知の仕組みが欠かせません。クラウド環境では瞬間的な負荷変動が起きやすく、従来の実績データだけでは十分ではありません。
CPU・メモリ・I/Oの使用状況を定期的に計測する
長時間実行SQLやロック待機を自動検知する
スパイク(急激な負荷増加)の予兆を分析する
継続運用できれば、重大障害が表面化する前に対応でき、結果的にシステムの安定性を強化できます。
外部ベンダーによるセカンドオピニオンの有効活用
社内リソースだけで課題を解決するのは困難な場合があります。そのため、外部専門家からの知見を取り入れることが有効です。
障害原因の客観的な分析を依頼できる
性能改善のための具体的な助言を得られる
将来的な構成変更やクラウド移行の相談が可能になる
第三者の視点を取り込むことで、属人的な体制から脱却し、組織全体の運用力を高められます。
日本エクセムの支援サービスで解決するクラウドDB運用課題
日本エクセムは、データベース運用を支援する分野に強みを持つIT企業です。設計や構築といった初期工程から、診断、性能改善、障害解析に至るまで幅広く対応し、安定した運用を支えています。
自社で開発した可視化ツール「MaxGauge」や、リモートによるDBAサービス「SmartDBA」を活用し、OracleやPostgreSQLを中心とする主要データベースの信頼性を確保してきました。国内外の大手企業で培った豊富な導入実績を背景に、現場課題を的確に解決へ導く専門性の高いサービスを提供しています。
MaxGaugeによるクラウドDB稼働状況の可視化とトラブル解析
クラウド上でPostgreSQLを運用する際には、システムの状態を即座に把握できるかどうかが安定稼働のポイントです。日本エクセムの提供する MaxGauge は、データベースの稼働状況を24時間365日リアルタイムで記録し、CPU・メモリ利用率、SQL実行時間、待機イベントといった詳細な情報を一元的に可視化します。
▼導入によって得られるメリット
障害発生時に原因を素早く突き止められる
蓄積されたデータをもとに「発生時期」と「対象SQL」を遡って分析できる
突発的なトラブルの兆候を検知し、先回りして対策を打てる
クラウドベンダーが標準提供する監視機能では捉えきれない粒度の情報を補える点が、大きなアドバンテージとなります。
SmartDBAによる継続的な運用支援とコスト効率化
リモートDBAサービスSmartDBAは、クラウド環境に対応した強力な運用支援ソリューションです。定期的な稼働状況のチェックや課題の洗い出し、性能改善の提案までを包括的にサポートします。
SmartDBAを導入すれば、専任DBAが社内に不在でも安定した運用を確保でき、障害発生後の対応工数を従来比でおよそ6分の1まで縮小できると報告されています。さらに、OracleやPostgreSQLをはじめとする複数のデータベースを一元的に管理できる点も魅力のひとつです。
加えて、新規にDBエンジニアを採用・育成する場合と比較して大幅なコスト削減につながるため、中堅企業やスタートアップにとっても導入しやすい現実的な選択肢となります。
まとめ
この記事では、クラウド時代におけるPostgreSQLのバージョン管理について以下の内容を解説しました。
オンプレ時代の「塩漬け運用」と限界
PostgreSQLバージョン管理の重要性
現行バージョンのサポート期限を確認する方法
クラウド環境での継続運用に潜む課題
PostgreSQL運用を安定化させるための解決策
日本エクセムの支援サービスで解決するクラウドDB運用課題
クラウド環境でPostgreSQLを長期的に活用するには、単にバージョンアップを繰り返すだけでなく、稼働監視体制や専門家の知見を取り入れた継続的な運用設計が不可欠です。適切な支援サービスを組み合わせることで、計画外の停止や人材不足といったリスクを低減し、安定したデータ基盤を維持できます。
『日本エクセム』では、データベースの設計・構築から運用まで幅広くサポートを提供しています。特に、監視や日常運用、障害予防といった観点から安定的なデータベース運用を実現するノウハウを提供しており、情報システム部門の負担軽減にも貢献しています。
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